現場で、お客さんから一番よく聞く言葉があります。
「もっと早く相談すればよかった」
これ、本当に多いんです。工事が始まってから、あるいは終わってから言われることもある。そのたびに、こちらも少し苦い気持ちになります。
どういう場面で出るか。たとえば、物件を契約した後に現地を見せてもらって、天井裏の状態や電気の容量がわかる。そこで「ここを直すのに、思ったよりかかります」という話をしなければならないとき。
契約前なら、別の物件を選ぶ余地があった。あるいは家賃の交渉で、その分を見てもらえたかもしれない。でも契約が済んでいると、そこはもう動かせません。
もうひとつは、工事が進んでから「やっぱりここを変えたい」となったとき。壁ができてしまってから中の配線を足すとなると、一度壊すことになります。費用も日数も余分にかかる。
図面の段階で言ってもらえていれば、線を一本足すだけの話だったのに、と思うことは正直あります。
ただ、お客さんを責める気持ちはまったくありません。初めて店を持つ人が、どの段階で何を決めなければいけないかを知っているはずがないんです。知らないのが当たり前です。
私たちは毎日この仕事をしているから、順番が体に入っている。でもお客さんにとっては一生に一度か二度の話です。何を聞けばいいのかすらわからない。それが普通だと思います。
だから「早く相談してください」と言うだけでは足りない。どの段階で、何を見ておけばいいのかを、こちらから言葉にして伝えないといけない。最近はそう考えています。
私がこの仕事を始めてから三十年以上経ちますが、昔より判断材料は増えました。ネットで図面も写真もすぐ見られるし、相場の情報も出回っています。
でも、情報が増えたぶん、どれが自分の物件に当てはまるのかがわかりにくくなった面もあると感じます。ネットに書いてある坪単価と、目の前の物件でかかる金額が合わない。それはそうで、建物の状態が一軒ずつ違うからです。
結局、現場を見ないとわからないことが多い。これは昔から変わっていません。
だから私は、契約前の物件でも「見に行きましょうか」と言うようにしています。そこで工事を受注できるかどうかは、その時点ではわかりません。見た結果「この物件はやめたほうがいいです」と言うこともある。
それで仕事が一件減っても、無理な物件で始めて数年で閉めることになるより、ずっといいと思っています。店は開けることよりも、続けることのほうが難しい。
秋から冬にかけては、春の開業に向けて動く人が増える時期です。この時期に話をいただくと、こちらも余裕を持って考えられます。工程も組みやすい。
逆に、年が明けてから駆け込みで来られると、できることが限られてしまう。間に合わせることはできても、選べる幅は狭くなります。
相談というのは、決まってからするものだと思っている方が多い気がします。でも実際は、決まる前のほうが役に立てることが多いんです。
「まだ何も決まっていないんですが」
その段階の電話が、一番ありがたい。そう思っています。